人生は目標設定、生き様はプロセス。『稲盛和夫の実践経営塾』

読書

京セラやKDDIの創業者で、最近だとJALの再建も果たした稲盛和夫さんが、盛和塾という経営勉強塾を主催していて、その中での中小企業の経営者との質疑応答をまとめた『実践経営塾』という本が学びが多かったです。

稲盛さんは時価総額1兆円を超える大企業を2社も創り上げていて、連続起業家ということになると思います。連続起業家と言いますと、ベンチャー企業を複数立ち上げた経験があり、その会社をIPOなりM&AなりでExitした経験のあることを指して言うことが多いですが、これだけのスケールの人は世界的に見ても多くはいないかと思います。

稲盛さんは仏教にも精通している関係で、思想に関する著作が多いのですが、一方で、盛和塾という経営勉強会のグループも運営していたので、その勉強会でのやりとりをまとめた本がいくつかありますが、この本は「親から事業を引き継いだ2代目経営者」「ITではない全くの異業種」といった今まで自分が知り得なかった世界の話だったり、事業の拡大の考え方や組織の考え方がよく伝わってきます。

ちなみに、この本は1998年出版ですし、働き方や会社に対する価値観が変わってきているなと感じる部分もあります。2019年現在との社会の働き方に対する考え方のトレンドの変化であったり、逆に本質は変わらないという部分も含めて呼んでいて面白いです。

以下、気になったところのメモです。

 人生は目標設定で決まる。生き様は単なるプロセス、目標が違う貴方とそのプロセスを論じても意味がない。目標が変われば生き様は変わるのです。

 弱さを認め合ったり、慰め合ったりすることが良いか、悪いかではありません。どういう道を歩きたいか、どういう到達地点に至りたいかということが、まず議論にならなければいけません。「自分が目標とする到達点に行くためには、こういう生き様を、こういうプロセスを辿らなければ成せないのだ」という考え方をすることが大切です。まず目標設定ありきなのであり、貴方が悩んでいるのは、むしろそれを達成するプロセスの問題なのだということを自覚すべきなのです。

 第一に、社長は公私の区別を峻厳として設けることです。つまり、公私混同をしてはいけません。特に人事については、いかなる不公平もあってはなりません。
 第二に、社長は企業に対する無限大の責任感を持つことです。なぜなら、企業は無生物ですが、その企業に命を吹き込むのは社長である貴方しかいないからです。躍動感に溢れる会社になるかどうかは、貴方が企業にどのくらい責任感を持って自分の意志を注入しているかで決まるわけです。
 第三には、社長は前述のような存在である以上、すべての自分が持っている人格と、自分が持っている意志を企業に注入することが必要です。
 第四には、社長というのは従業員の物心両面の幸せの追求のため、誰よりも努力する存在でなければなりません。
 第五としては、社長というのは従業員から尊敬される存在でなければなりません。そのためには心を高める必要があります。ですから、持って生まれた人柄で経営していくのはやめて、哲学を極めていく必要があるのです。

実は、人間が一番強くなるのは、執着から解脱した時なのです。「儲けたい」「偉くなりたい」、これはみな欲望です。もちろん、この執着、欲望から完全に抜け出すのは無理ですが、「人を喜ばすために」と考えれば、その分我欲が引っ込みます。心が高まっていくのは、実はここからなのです。
本当にこんなことで経営が伸びるのかと貴方は思うかもしれません。しかし、京セラの発展も、私が会社を創って二年目、大変悩んだ末に、「全従業員の物心両面の幸せの追求」ということを経営の基本においてから始まりました。「情けは人のためならず」という言葉もございます。この「利他」の精神を心に抱いて経営にあたられますように。

経営目標を設定するために適切な手順や基準があるわけではありません。経営目標というものは、そのような形式を問題とするようなものではなく、経営者の「こうしたい」という強い思いが表れたものでなくてはならないのです。そして、経営者は社員全員に「社長が決めたのなら、いくら無理をしてでも、必ず達成しよう」と思わしめることができなくてはなりません。

「成功する人は、必ず死線をさまようような大病をするか、大きな挫折を経験しています。決して幸運に恵まれることの連続という人生ではなかった」ということです。松下幸之助翁が「地の小便が出るようなことがなければ一流の経営者にはなれない」と言われたとのことですが、本当に悩んで苦しんだ人は、強靭な精神力が養われるから強いのです。

流通であれ製造であれ、「売上の一割くらいの税前利益がなければ事業ではない」

中小企業の場合、利益というのは将来の賃上げを保証できる原資がそこにあるということに過ぎない、と考えるべきだと思います。

「利なくして商いなし」とも申します。儲からない事業など、この世にはないのです。儲からないのは、初めから儲からないと思い込んで経営している経営者の心に問題があるのです。

『税金は経費と考える』–すなわち「一億円残したかったら、二億円の利益を出す」–これは、盛和塾入門の第一番で、盛和塾の原点と心得ていただきたいのです。税金を納めまいと言う姑息なことは絶対思ってはいけません。そういう会社は永遠の中小企業です。会社が小さいうえに節税しようと一生懸命考えるから、ますます会社が小さくなってしまうのです。

一般的には、セールスマンを増やすと総務の人が必要だ、間接人員が増える、ということになりがちなのです。さらに、今度は整備が必要だ、センター設備が必要だと慣れば、結局、利益率は伸びません。貴方にしても、「人を増やせばサービス工場は必要かと思います」と、手紙に書かれています。「売上が増えれば経費が増えるのは常識だ」と、やはり思っているのです。しかし、こういう投資こそ後追いで良いのです。

『人は石垣、人は城』といわれますが、企業を城に見立てますと、人は石垣です。城の石垣というのは大きな石だけではつくれません。存在感のある素晴らしい大きい石だけでつくれるのではなく、大きな石と石の間に小さな石が幾つも詰まっているから堅牢な石垣が生まれ、城を支えることができるのです。
能力はあまりないけれど、人物、人間が素晴らしい人というのはいるのです。近代企業を経営するには無駄だと思われるかもしれませんが、それは決して無駄ではないのです。もちろん、近視眼的に見れば能率は悪いし、資格を持っている人ばかりを集めたほうが良さそうに見えますが、会社に対して素晴らしいロイヤリティがあって、一生懸命会社のために尽くしてくれる社員がいることは、実際には大変な財産になるのです。「知恵のあるものは知恵を出せ。知恵のないものは汗を出せ」といいますが、それが組織なのです。

今日、京セラは一兆円を超えるような大企業になり、この不況下でも高い利益水準を保っております。しかし、その会社を現在率いているのは、京セラを興す前渡しが勤めていた会社に、高校を卒業して入社し、私の助手として一緒に仕事をしてくれた人たちです。私はその人達を教育する時、学歴や能力などということは一切考えず、大学時代の教材を使ってセラミックの授業をし、毎日の仕事のことも含め、それは綿々と教育してきました。結局、その人たちは、あとから入社した大学卒の人たちよりはるかに偉くなっています。

 やり手だといわれる人に跡を継がすと、能力があるがゆえに、積極経営をして会社をだめにしたり、順調に経営していると今度は傲慢不遜になり、とんでもないことをしでかす、といったことがよくあります。
できれば自分を超える能力のある人に跡を継がせ、会社を伸ばしたいというのは道理ではあります。しかし、安全に事業を継承するということを第一と考えれば、非常に保守的ではあるかもしれませんが、私ならナンバー2の条件に「人柄」を挙げます。心がきれいで、人間として正しいことを貫いていくような真面目な人物を、やはり選ぶべきだろうと思います。
 「仁は人の心なり、義は人の道なり」といいます。ナンバー2には、部下に対する思いやりと、トップである貴方に対する思いやりの両方がベースに要りますから、「仁」「義」「誠実」そういうものがある人が選ばれるべきです。もし、実は才能面で物足りないのだがという場合でも、敢えてその人物を選ぶべきだと思います。
 ナンバー2の要件として次に必要なのは、会計に明るいということです。貸借対照表、損益計算書の全部の勘定項目がすべてわかっていなければなりません。
 第3の資質として必要なのは、人の話によく耳を傾けることができるということです。才知に富む人ではないだけに、衆知を集めて物事を決められる人でなければなりません。

 多角化というのは、同一企業内において事業部として多角化を図っていく分には問題はありませんが、なぜか中小企業の経営者の方は、多角化を図る際、分社という方法を採られます。たくさん子会社を創っても、合算すれば売上十億円というのでは、人材も分散しますし、体力が弱まるのも当然です。特に、貴方がおっしゃるように、人材が不足しているのにもかかわらず本体の人を次々と出していけば、当然弱体化を招きます。ファンクションが違うから分社化しようということは、すべきではないと思います。

 この幾何級数的に難しくなることを貴方一人でやらなければ、多角化は成功しないのであり、多角化に踏み出せば、もう遊んでいる暇はなく、「誰にも負けない努力」が必要になるのです。
 そして、努力のほかに、「凄まじいばかりの集中力」が要求されます。競争相手は一つの業に100%打ち込んでいるわけですから、こちらが全神経を二分、三分していたのでは負けるに決まっているのです。全精力と全神経を二等分、三等分にしてやっているように見えても、その30%は向こうの100%に勝るというような集中力がなければ、勝負に勝てるわけがありません。
 今までの3倍も4倍も働かなければならない。多角化とはつまり、そういうことなのです。しかし、この多角化の坂道を登っていくことが、中小零細から中堅企業に脱皮をしていくということなのです。

 貴方は自分の趣味である水泳を業とされたわけですが、「貴方は水泳と心中するつもりなのか、事業家になるつもりなのか」ということです。私は貴方の場合は後者だと思うのです。
 貴方はゼロから始めて年間6億円の売上で、経常利益も一割出せる企業を創ってこられた。これは貴方に経営の才能があるということです。しかし、この商売はもう貴方の県では限界なのです。おそらく、よその地域に行っても状況は一緒でしょう。極論すればその程度の商圏しかない事業なのです。さすれば最初の事業としては上出来だったと割り切って、ここで養った企業経営のノウハウを活かして新規事業に出るのです。簡単にいい商売が見つかるわけではありませんから、じっくり勉強して、情熱を燃やしてやれそうな事業を探して出ていかれれば良いと思います。
 『中小企業が中堅企業へと伸びていくためには、実は多角化しかないのだ』ということを自覚していただきたいと思います。私自身が京セラでそれをやってきました。最初に手掛けた電子用セラミックだけでは、注文がなくなったらおしまいだと思い、そこで覚えたことを連綿と展開して新しい事業を創ってきました。そのことが今日の幅広い製品分野を持った京セラという会社を創り上げてきたのであり、もし最初のセラミックという事業に特化していたら、零細企業のまま終わっていたことでしょう。

 新規事業をやる場合には、「本業とあまりかけ離れたような事業に手を出してはいけませんよ」と申し上げてきました。
 それはどういう意味かとお申しますと、事業経営にはやはり深い専門知識と経験が必要なのです。いくら努力をしても、その事業に深い知識がなければ成功しませんし、長年の経験というものも大変大事です。自分の本業に近ければ、本業の専門知識が活きますから、たとえ経験がなくとも、そう大きくは間違わないものです。

私は、新規事業に取り組む時は、十分シミュレーションを尽くして始めますから、事業部にしろ子会社にしろ、うまくいかないということは本来ありえないと思ってかかります。うまくいかないのは、トップがその理由を考えていないか、その理由を解決しようとしていないかで、いずれにしてもトップに問題があると考えます。ですから、新規事業部長や子会社のトップとのやりとりは凄まじい真剣勝負となります。

 企業を発展させるための『新しい4つの創造』という観点から、補足したいと思います。
 私は、企業を発展させるものは創造しかないと考えています。新商品の開発も創造の一つです。私は創造には以下の4つの創造があると考えています。すなわち、『新しい需要を創造する』『新しい市場を創造する』『新しい技術を創造する』『新しい商品を創造する』がそれです。ただし、これらは独立して存在するのではなく、渾然一体となったものなのです。貴方の場合なら、成功した技術の創造を、商品の創造につなげ、需要の喚起、市場の創生へとつなげていかなければ、新技術が企業の発展には貢献しないということになります。

 一杯飲みながら、和やかな雰囲気の中で、今からどういう人生を送るのかを話し合い、互いに向上し合うような酒盛りにするというのが京セラ流です。
 ですから、京セラのコンパは非常に真面目です。ただ面白おかしく、ただ酒を食らって己を忘れてしまうような、酒に呑まれるような酒は下の下です。うちではそういうのは一発で叩き出されてしまいます。だから、自然とそういう雰囲気が出てきて、合わない人は自然とこぼれていくことになります。

 だいたい酒なんぞは飲み方で人生が決まるんです。酒の飲み方ひとつで、人はいくらでも堕落してしまうものなのです。
 でも向上する酒だってある。一献献上して胸襟を開いた時に、人生とはなにか、人間とはどう生きていくべきかを話せば、変わってくるのです。面白おかしく騒いだり、憂さ晴らしばかりが酒じゃないだろう、酒を飲めば飲むほど真面目な、身につくような話をお互いしていこうではないか、そういう素晴らしい酒を飲もうではないか、というのが京セラのコンパです。以上です。

 会社というのは必ず問題が起きるもんですから、問題が起きてくれば、なるべく時間内でやっていこうという従業員だけではとても解決できない。
 そういう人たちが、会社が崖っぷちに立たされた時、理解して協力してくれるならいいのです。しかし、自分の権利だけを主張し、経営者を支援してもらわなければいけない時に、逆の行動に出るんです。
 ですから私は、いざという時、残業をしてでも、困難な時は頑張ろうという社員が必要になってくるし、どのくらい協力しようという従業員がいるのかが会社の運命を決めるんだろうと考えました。最終的には、経営者というのは、従業員の意識を、経営者の意識にまで高めていく必要があるのではないかと思うようになったのです。
 そこで、私は経営の実態をなるべく赤裸々に従業員に伝え、うまくいっている時は、「従業員の皆さんの努力のおかげです」と言うし、悪い時は正直に、「悪い」と言って、共に頑張る風土を醸成し、従業員の気持ちを経営する側の気持ちと同じレベルに高揚させていこうとやってきました。
 しかし、時代が違います。時間だけ働いて給与をもらえればよいという従業員が増えていますから。もし、そういう人を基準にして経営していかなければならないとすれば、終身雇用は崩れるのでしょうね。今終身雇用を崩そうという意見が出始めているのは、そうした従業員をたくさん抱える企業の経営者からです。
 そうなると欧米流の経営にならざるを得ない。日本で美徳とされてきた終身雇用や年功序列給与はなくなっていかざるを得ないでしょう。
きっと、もうそうなっていかざるを得ないのでしょう。得ないんだけれども、世の中がそう変わるなら、京セラだけは一番最後に変わろうではないか、それまでは労使協調で一生懸命協力する会社であって欲しい。そういうことになるんでしょうね。そういうことが勝負ではないでしょうか。

 「好きこそものの上手なれ」といいますが、経営そのものが苦痛であってはいけません。二代目であろうと、三代目であろうと、たとえ自分の意志ではなくても、その会社を継いだ以上、何としても仕事を好きにならなければいけません。
 では、好きになるにはどうするのか、それは仕事に打ち込むことです。打ち込まなければ、決して好きにはなれません。どんな仕事であっても、それに全力で打ち込んでやり遂げれば、大きな達成感と自信が生まれてきます。その繰り返しの中で、さらに仕事が好きになります。さすればどんな努力も苦にならなくなり、素晴らしい成果を挙げることができるのです。
 名経営者の条件がもしあるとすれば、自分の今の経営という仕事を好きになることです。そのためには貴方の今の仕事に打ち込むこと、それしかありません。以上です。

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