経営不振に陥っていたUSJを立て直した森岡さんというP&G出身のマーケターの方が書いた本です。
USJが如何に盛り返して東京ディスニーランドの年間来場者数を超えるまでに、どうやってハリーポッターのアトラクションを作るために社内を説得して、建設費450億円を捻出するためにどうしたかなどがストーリーで語られているのでシンプルに物語として面白いです。
またUSJを立て直すかの戦略策定・戦術の実行(エグゼキューション)までをどのように考えていったかもシミュレートしながら理解出来て勉強になりますし、遊園地の社会的意義として人々をわくわくさせることはもちろん、USJは西日本にあることによって東日本から大量の人々を移動させることができ、結果として情報と金を動かしているために価値が高いと結論づけていることが興味深かったです。
USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?
- テーマパークの最も重要な社会的価値は、多くの人々を元気にできる効用にあると私は考えています。よく試算される経済効果の莫大な数字的な額面よりも、実はもっと大きな社会への効用だと思います。
- 「映画だけにこだわること」こそが戦略上の大きなミスなのです。この日本において、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが、どうしてディズニーランドと差別化しないといけないのでしょうか?
- 東京と大阪の間には交通費という「3万円の川」が流れているからです。両方のマーケットは分断されているのです。その川を渡って向こう岸に行く人の割合は、USJ側から見ると実は全集客の1割にも満たないのです。
- このパークを「映画の専門店」ではなく、映画もほかも含めて「最高の感動を届けるブランドを世界中から集めたセレクトショップ」にしたいと考えるようになりました。こだわるべきはフォーマットではなく感動そのものであり、その感動を生み出す「エンターテイメントの品質」にこだわってブランドを創る戦略です。
- 私はアイデアを考えるときは、まず目的を徹底的に珍味して定め、その次にアイデアが満たすべき「必要条件」を一番時間をかけて考えます。そしてその必要条件を組み合わせ、より条件を絞り込んで、自分が必死に思いつくべきアイデアの輪郭をできるだけ明確に絞り込んでいきます。
- 当パークの「子供連れファミリー」の集客が、マーケットの人口構成比と競合他社の集客データから推定されるあるべき水準に比較して、あまりにも少ないことを発見しました。
- くるくる回るライドの中から見える世界がかわいくてワクワクするように、ライドに乗った子供の目線の高さから見える周辺施設の建物のデザインにこだわっています。子供の目線の高さは大人が思っているよりもずいぶんと低いので、手すりに邪魔されて実際は外がほとんど見えないライドが世の中には満ちているとのアドバイスによるものでした。
- 既にあるアイデアをいただくことを「リアプライ」と言います。世の中から使えるアイデアを探して応用するのは、マーケターであれば誰でもできなかればならないことだと私は信じています。
- リアプライには利点が3つあります。①どこかで成功しているアイデアを土台にしたほうがプロジェクトに圧倒的なスピードをもたらす、②どこかの消費者で試されている分だけ成功の確率も高い、③これが最も重要なのですが、アイデアを自分で生み出すための引き出し(ストック)がものすごく増える。
- 目的を達成するために、持っている経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報、時間、ブランド等の知的財産など)を何に集中するのかを選んで決めます。その選択が戦略なのですが、理解として大切なのはその戦略こそが生み出すべきアイデアの範囲を決める「必要条件」そのものになっていることです。なぜならば、アイデアとはその戦略の延長線上で次に考えるべき戦術そのものだからです。
- 戦略的フレームワークは、目的→戦略(必要条件)→戦術(アイデアそのもの)の順番で考えていくと、選択肢を合理的に絞っていくことができます。
- 目的:そもそも達成すべき命題はなにか?(例:彼女と仲直りする)
戦略:目的達成のために経営資源を何に集中するか?これがアイデアの必要条件(例:彼女の好きなもので歓心をかう)
戦術:具体的にどのように実現させていくのか?これがアイデア(例:彼女の好きなアーティストのコンサートチケットをあげる) - 年間集客は700万〜800万ではなく、1000万人レベルを集客できるのではないかと弾き出し、向こう3年以内の目的として、「1000万人の年間集客を安定的に達成すること」と掲げました。次に戦略です。1000万人を達成するための戦略オプションをあれこれ考えました。USJが昔から強い独身女性により多く来てもらう戦略、未開発のシニア層を呼び込むための戦略、USJに来る頻度が低い地域を呼び込む戦略など、様々に大方針を考えたのです。それらの中から、ターゲットの不必要な狭さに着眼して、最も達成可能性が高いと判断した戦略が「小さな子供連れファミリーを獲得する」ことでした。そうなれば「小さな子供連れファミリーの獲得」を必要条件にアイデアを考えればよいわけです。
- 数学的フレームワークでは、論理的に宝を探します。特に問題の原因の発見や、可能性の発見に向いています。宝がどこにあるか、足して100になる仮説を立てて検証するやり方です。
- 多くの人は会社で長く働きすぎです。さっさと早く仕事を切り上げて、自分へのインプットを増やす機会をどれだけ作れるかが、実は重要なキャリアの差を生むことを自覚したほうがいいのです。
- 自分一人では発想が広がらないケースはよくあることです。そんなときにはフレッシュな発想の起点が必要になります。ですから集団知としてのストックの強化を常に心がける必要があります。
- フレームワークで考えるべきポイントを明確にし、リアプライで世界中からアイデアを探し、自身やチームのストックで文脈の豊かな情報を活用したら、あとは、考えつくまで考え抜くことです。これが一番大事なことですが、実は多くの人ができないでいるように私には思えます。
- 日本人の習慣に併せて下を塞ぐべきか、ホグワーツのトイレらしくリアルに作るべきか、社内でも相当な議論になりました。我々の結論は「Authentic(本物)かどうか?」という原則に立ち返って、完璧にホグワーツのトイレを再現することでした。
- 経営資源が少ない企業は、まずいちばん大事なところに資源を集中しないと勝てません。リスクヘッジしようと資源を分散すると、全てで資源が不足して負ける可能性が大きくなります。一点張りで絶対に勝たないといけない重要性は、大企業の比ではありません。だから中小企業は、大企業よりも頭を使っていかないと駄目なのです。
- より多くの人がより長距離を動けば、金が動き、情報が動き、社会は活性化していきます。その意味では西よりも東に住んでいる人のほうがずっと多く、特に関東には関西の3倍近い人口がいます。東から西に向けて人が動いたほうが、日本国のためにはよほど大きな経済効果なのです。
- 日本女性は、アメリカ女性の約2倍の頻度でテーマパークを訪れます。世界でも突出してテーマパークが大好きなのは日本女性(特に母親層)なのです。これは私の考えですが、先進国の中でも特異な日本の文化事情によって、母親が罪の意識なしにストレスを発散できる装置が少ないからではないかと思います。